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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)8179号 判決

原告

古曳浩司

ほか一名

被告

長谷卓行

ほか一名

主文

一  被告長谷卓行は、原告古曳浩司に対し、金四〇万八二三四円及びこれに対する平成七年一二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告富士火災海上保険株式会社は、原告古曳浩司に対し、前項の判決が確定したときは、金四〇万八二三四円及びこれに対する平成七年一二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告長谷卓行は、原告古曳勝代に対し、金五六〇万二五一二円並びに内金二二七万七七一六円に対する平成七年一二月五日から、内金三三二万四七九六円に対する平成一二年一月二五日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告富士火災海上保険株式会社は、原告古曳勝代に対し、前項の判決が確定したときは、金五六〇万二五一二円並びに内金二二七万七七一六円に対する平成七年一二月五日から、内金三三二万四七九六円に対する平成一二年一月二五日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告らの、その余を被告らの負担とする。

七  この判決は、第一項及び第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  被告長谷卓行(以下「長谷」という。)は、原告古曳浩司(以下「原告浩司」という。)に対し、金八一万〇四三四円及びこれに対する平成七年一二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告富士火災海上保険株式会社(以下「被告富士火災」という。)は、原告浩司に対し、前項の判決が確定したときは、金八一万〇四三四円及びこれに対する平成七年一二月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告長谷は、原告古曳勝代(以下「原告勝代」という。)に対し、金一六三〇万六七八九円並びに内金二二七万七七一六円に対する平成七年一二月五日から、内金一四〇二万九〇七三円に対する平成一二年一月二五日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告富士火災は、原告勝代に対し、前項の判決が確定したときは、金一六三〇万六七八九円並びに内金二二七万七七一六円に対する平成七年一二月五日から、内金一四〇二万九〇七三円に対する平成一二年一月二五日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告長谷運転の普通乗用自動車(姫路五九ろ三八七二。以下「加害車両」という。)が平成七年一二月四日午前八時三〇分ころ、奈良市学園北二丁目四番一号先路上において、被告長谷の過失により停止中の原告勝代(昭和二一年一一月二九日生まれ)運転、原告浩司所有の普通乗用自動車(奈良五九ち六四二六。以下「被害車両」という。)に衝突したため、被害車両が前方に押し出されて、前方に停止中の岡田昭子運転の普通乗用自動車に衝突した事故(以下「本件事故」という。)につき、原告浩司が、被告長谷に対し、民法七〇九条により、損害(物損)賠償請求をし、被告富士火災に対し、被告長谷に対する前記判決の確定を条件として、自家用自動車総合保険契約に基づく保険金請求権を代位行使し、また、原告勝代が、被告長谷に対し、自賠法三条により損害賠償請求をし、被告富士火災に対し、被告長谷に対する前記判決の確定を条件として、自家用自動車総合保険契約に基づく保険金請求権を代位行使した事案である。

一  争いのない事実及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実

(一)  本件事故が発生したこと、その結果、被害車両が大破したこと

(二)  被告長谷は、原告浩司に対し民法七〇九条の責任、原告勝代に対し自賠法三条の責任をぞれぞれ負っていること、被告長谷と被告富士火災との間で自家用自動車総合保険契約を締結していること

二  争点

損害額(原告らの損害額は、別紙原告ら主張損害額記載のとおりである。)

(原告勝代の主張)

原告勝代は、本件事故により頸椎椎間板ヘルニア、右膝内症の後遺障害を残して、平成九年五月症状固定した。同後遺障害は、後遺障害別等級表九級一〇号に該当する。

(被告らの主張)

原告勝代主張の頸椎椎間板ヘルニアは、いわゆる経年性変化によるものであって、本件事故と因果関係を欠くものである。

原告勝代主張の右膝内症についても、原告勝代は、本件事故により膝を打ち付けた事実は存しないので、本件事故と因果関係はない。

第三  争点に対する判断

一  原告浩司の損害

(一)  車両損害 三一万〇〇〇〇円

当事者間に争いがない。

(二)  代車費用 〇円

本件事故と相当因果関係のある代車費用は、通常、事故後一か月間分に限って認めるのが相当であるというべきところ、本件において、事故後一か月間分を超えて認めるべき特段の事情は存しない。この点、弁論の全趣旨によれば、被告は、原告浩司に対し、本件事故から一か月分の代車費用(レンタカー費用一九万八〇〇〇円及び消費税五九四〇円)を支払済みであることが認められるので、被告は、原告浩司に対し、さらに、代車費用を支払う義務はない。

(三)  廃車諸費用 五万八二三四円

証拠(甲一〇の一、甲二一)及び弁論の全趣旨によれば、原告浩司は、本件事故により被害車両は大破し、原告浩司は廃車のための諸費用として五万八二三四円を要したことを認めることができる。

(四)  弁護士費用 四万〇〇〇〇円

本件事故の内容及び態様、本件の審理の経過、認容額等に照らすと、本件事故と相当因果関係がある弁護士費用は、四万〇〇〇〇円をもって相当と認める。

(五)  したがって、被告長谷は、原告浩司に対し、以上の損害合計四〇万八二三四円を支払うべき義務がある。その結果、被告富士火災は、原告浩司に対し、被告長谷に対する判決の確定を条件として、同額の金員を支払うべき義務がある。

二  原告勝代の後遺障害の内容・程度(等級)及び損害

(一)  後遺障害の内容・程度(等級)

証拠(甲三ないし六、一一、二一、乙一ないし四、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。

原告勝代は、平成七年一二月四日、堀池医院を受診し、平成九年一月八日まで、頭部外傷、頸部捻挫、外傷性頸肩腕症候群の診断の下、投薬、温熱療法、牽引療法等の保存的治療を受けた。堀池医院の初診時の診療録には、「第二ないし第五頸椎圧痛、両側肩甲上神経圧痛、スパークリングテスト陽性、ジャクソンテスト陽性、頭部圧迫テスト陽性、頸椎生理的前の消失、変形性脊椎症」の記載があり、自覚症状として、「吐き気、頸剖痛、頭痛」の記載がある。原告勝代は、同医院での初診時、頭部につき、CTスキャンの検査を受けたが、特段の異常は発見されなかった。

平成八年五月一〇日付けの堀池医院の診断書の主たる検査所見に「第二ないし第五頸部圧痛、両側肩甲上神経圧痛、スパークリングテスト陽性、ジャクソンテスト陽性、頭部圧迫テスト陽性、両上肢の知覚異常あり、巧緻運動障害あり」との記載がある。

以上の堀池医院への通院の間、原告勝代に両手の痺れ、脱力感、頸部痛などの症状があったことから、検査のため、堀池医院の紹介により西奈良中央病院放射線科を受診し、平成七年一二月二二日、MRI検査を実施したところ、第五頸椎と第六頸椎の間に頸椎椎間板ヘルニアが存し、頸髄の圧迫変形が認められた。また、平成八年一月一六日には、右上肢知覚異常左上肢冷感、左胸鎖乳突筋圧痛が著明なため、堀池医院の紹介により西奈良中央病院整形外科を受診し、平成九年一月七日まで、脊髄造影検査(エミログラフィー)のための平成八年一一月二一日から同月二三日までの三日間の入院を含め、投薬、頸椎牽引、星状神経節ブロック等の治療を受けた。この間、原告勝代は、両肩の冷感、視力の低下等を訴えている。なお、平成八年六月一八日実施のMRI検査の結果、第五頸椎と第六頸椎の間に頸椎椎間板正中ヘルニアが認められ、また、平成八年一一月二一日実施のCTスキャンの検査の結果、第五頸椎と第六頸椎の前後に骨が存し、椎間腔の狭小化が認められた。平成八年一月三〇日付けの同病院の診療録には、「左手に巧緻運動障害」とあり、平成八年六月一八日付けの同病院の診断書の傷病名欄には、「頸椎捻挫、頸椎椎間板ヘルニア」とあり、また、「左上肢知覚異常と倦怠感あり、星状神経節ブロック施行、巧緻運動障害、頸部硬膜外ブロックも施行、巧緻運動障害進行し、手術的治療も検討中、MRIでは、第五頸椎と第六頸椎の間で、後方凸変形と正中ヘルニアあり」と記載されている。

また、原告勝代は、平成八年二月二日、西奈良中央病院の紹介で、手術適応の判定、精密検査の目的で、恵生会病院を受診し、平成八年一一月二九日まで通院したが、結局、手術は受けなかった。なお、平成八年三月二二日付けの恵生会病院の診断書の症状の経過欄には、「左上肢の脱力感、左肩甲帯~手のしびれ感、左上下肢の知覚鈍麻、両下肢鍵反射亢進、左バビンスキー反射陽性」と記載されている。

以上の認定によれば、原告勝代の職歴(証拠(甲二一、原告本人)によれば、原告勝代は、着物の着付けの講師をする前の、昭和四〇年から同六〇年まで、郵政省の貯金事務センターに勤務し、伝票を整理して、そろばんにより計算をする作業や、一日中キーボードで入力する作業に従事していたことが認められる。これは、頸部等に相当の負担のかかる作業であると推認される。)、原告勝代の年齢(原告勝代は、本件事故時四九歳であるから、前記の職歴と併せ考えるとき、椎間板に相当の経年性変化が生じていたと推認して差し支えない。)、堀池医院の初診時の診療録には、「変形性脊椎症」の記載があり、また、平成八年一一月二一日実施のCTスキャンの検査の結果、第五頸椎と第六頸椎の前後に骨が存し、椎間腔の狭小化が認められたこと、原告勝代の治療が相当長期にわたって遷延化していることに照らし、原告勝代には、もともと、第五頸椎と第六頸椎の間に、いわゆる経年性変化による退行現象の一形態である変形性脊椎症(頸椎症も同じ。)が存したところ(しかしながら、証拠(甲二一、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、主婦として家事に従事する一方、かねてより、京都きもの着付学院で着物の着付けの講師をしており、着物を着せたり、帯を結んだりするなどの手先を使用する細かい作業に不自由なく従事していたことが認められるので、原告勝代の前記変形性脊椎症は、具体的症状としては、いまだ発症していなかったことを認めることができる。)、本件事故による衝撃が加わり(なお、本件事故による原告勝代に加わった衝撃は、被害車両が大破したことからみて、相当大きなものであったことが推認される。)、これが契機となって、前記のとおりMRI検査により認められた、第五頸椎と第六頸椎の間の椎間板ヘルニア(なお、原告勝代につき、当初頸部捻挫ないし頸椎捻挫の病名が付けられたことがあるが、椎間板ヘルニアの病名でもって代表させることにより、頸部捻挫ないし頸椎捻挫を独立して病名として掲げる必要がないか、あるいは、付加的なものとして掲げるをもって足りるといえる。)が発症したと認めることができる。

そして、前記認定及び証拠(甲二一、乙一ないし四、原告本人)によれば、原告勝代には、前記の左上下肢の知覚障害、手指巧緻運動障害、頸部から左上肢の疼痛、下肢腱反射亢進、眩暈、不眠、視力障害、視力低下等の各症状が存することが認められるところ、このうち、左上下肢の知覚障害、手指巧緻運動障害、頸部から左上肢の疼痛、下肢腱反射亢進などは、頸椎椎間板ヘルニア(椎間板の膨隆ないし脱出)がもたらす頸髄ないし頸椎神経根の圧迫による頸髄障害ないし頸椎神経根障害によるものと認められる。また、原告勝代の眩暈、不眠、視力障害、視力低下の各症状は、本件事故により頸部交感神経の損傷、頸部筋の緊張による交感神経刺激、頸椎椎間板ヘルニアによる神経根の圧迫などによりもたらされたものであると認められる。もっとも、原告勝代主張の胃炎は本件事故と因果関係があると認めるに足りない。また、原告主張の左膝内障(甲一二参照)も、本件において、いまだ因果関係を認めるに足りない。

証拠(乙一ないし四)及び弁論の全趣旨によれば、原告勝代の前記後遺障害は、平成九年五月末をもって症状固定したものと認めることができる。前記認定の原告勝代の症状の内容、及び証拠(甲二一、原告本人)によれば、原告勝代は、本件事故直後から、車を運転して、夫の原告浩司の通勤等のための最寄り駅までの送迎や、買い物に出かける等することがあったことを認めることができるので、その主張に係る知覚障害等は特に重大なものであったとは認め難いこと等に照らし、原告勝代の後遺障害は、後遺障害別等級表一二級一二号に該当するということができる。

(二)  原告勝代の損害額

原告勝代は、本件事故により、次のとおり損害を被ったことを認めることができる(以下、一円未満は切り捨て)。

(1) 治療費 一七四万三七五九円

証拠(甲七ないし九、甲一三のないし一八)によれば、原告勝代主張額一七四万三七五九円を認めることができる。

(2) 院交通費 八二〇〇円

証拠(甲一九、二〇)及び弁論の全趣旨によれば、原告勝代主張額八二〇〇円を認めることができる。

(3) 休業損害 一一九万六九四三円

証拠(甲二一、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、主婦として家事を行うとともに、かねてより、京都きもの着付学院で着物の着付けの講師をし、奈良や生駒の教室に出かけて教えており、年収として一〇〇万円(一日につき、二七三九円)を得ていたが、本件事故による上肢の知覚障害、脱力感等により、着物を着せたり、帯を結んだりするなどの手先の細かい作業ができない状態となり、着付けの指導ができなくなり、平成八年三月二一日、やむを得ず同学院を退職したこと、原告勝代は、その後、症状固定の平成九年五月末まで、休業を余儀なくされ、この間の四三七日につき、原告勝代は、一一九万六九四三円の損害を被ったことを認めることができる。

2739円×437日=119万6943円

(4) 後遺障害逸失利益 六〇万六一一六円

証拠(甲一)によれば、原告勝代は、事故当時四九歳の女子であり、平成九年五月の症状固定時において、五〇歳であることが認められる。前記の原告勝代の後遺障害は、その内容等に鑑み、五年間存続するものと認めることができる。原告勝代の後遺障害別等級は、前記のとおり一二級(労働能力喪失率一四%)である。そこで、原告勝代につき、年収一〇〇万円を基礎に、ライプニッツ方式(係数四・三二九四)により年五分の割合による中間利息を控除して逸失利益を算定すると、その額は、次の計算式のとおり六〇万六一一六円となる。

100万円×4.3294×0.14=60万6116円

(5) 通院慰謝料 一四二万〇〇〇〇円

原告勝代の病状、その経過、通院期間(証拠(乙一ないし四)によれば、原告勝代は、平成七年一二月から症状固定の平成九年五月末まで一七か月以上に及ぶことを認めることができる。)その他一切の事情を考慮するとき、原告勝代の通院慰謝料としては、一四二万円をもって相当と認める。

(6) 後遺障害慰謝料 二三〇万〇〇〇〇円

原告勝代の後遺障害の内容、程度(一二級)、その他の一切の事情に鑑みるとき、原告勝代の後遺障害慰謝料として二三〇万円をもって相当と認める。

(7) 素因減額

前記認定の原告勝代に変形性脊椎症が存した事実、その内容、本件事故の態様、原告勝代の治療の経過、治療が長期化した事実、その他の一切の事情に鑑みれば、本件事故による原告勝代の頸椎椎間板ヘルニア発症への影響ないし寄与度は、三〇(ママ)%であるというべきである。そこで、原告勝代の損害額合計七二七万五〇一八円から三〇%分を控除すると、残金は、五〇九万二五一二円となる。

(8) 弁護士費用 五一万〇〇〇〇円

本件事故の内容及び態様、本件の審理の経過、認容額等に照らすと、本件事故と相当因果関係がある弁護士費用は、五一万円をもって相当と認める。

(9) したがって、被告長谷は、原告勝代に対し、以上の損害合計五六〇万二五一二円を支払うべき義務がある。その結果、被告富士火災は、原告勝代に対し、被告長谷に対する判決の確定を条件として、同額の金員を支払うべき義務がある。

第四  よって、原告らの請求は、主文記載の限度で理由がある。

(裁判官 中路義彦)

原告ら主張損害額

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